ねぎ秘密結社
2000.01.17 ◆ 社長を困らせろ!


「それにしても…いきなり会社が引っ越しなんて…驚いたわ」

正月早々、ねぎ秘密結社は、借りていた貸しビルの
管理人に立ち退きを言い渡され、突然の引っ越しとなってしまったのだ。
幸い、新たな引っ越し先が早くも見つかり、連休を利用して
旧ビルから新たなビルへ引っ越し作業を行っているのだ。
当然、社員全員休日出勤である。

引っ越しの荷物を整頓しながら、
久我在素は、疲れから軽くため息を付く。
「でも…よくもまぁこんなにも早く新しい引っ越し先が
見つかったものよね…運がいいわね、社長も」

「……フフ……本当にそう思うかね…?在素……」
在素の独り言を聞いた恭一郎が、突然不気味な笑みを浮かべる。
「な、何よ。普通、こんなに早く空きビルなんて見つからないのよ。
運がいいって以外に何があるってのよ?」

「……フフフフフ……それではもし、このビルが、
運が良かったわけでも無く、偶然でもなく
最初からあらかじめ用意されていたものだとしたら…?」

「は?」
「これを見たまえ」
そう言って、恭一郎は誇らしげに少し黄ばんだ冊子を取り出す。
「…………! これ…このビルの権利書!?」
黙って頷き、微笑む恭一郎。
「このビルの所有者はこの私なのだよ」
在素は、驚きを隠せないまま、権利書を軽くパラパラと眺める。
「…け、けど…これがどうしたっていうのよ?
別に、たまたまお父さんが持っていたビルを会社のために
貸してあげたってだけでしょ?会社が路頭に迷わないように…」

「フフフフフ…私がそんなボランティアをする善人に見えるかね…?
考えてもみなさい。このビルの管理者である私が、社長に
『立ち退きたまえ』と言えば、この会社の行き先は
本当になくなってしまうのだ…それが何を意味するかわかるかね?」

在素は、ごくり、と唾を飲む。
「…つ、つまり…お父さんは社長より高い身分を手に入れたってこと…?」
「その通り……
……フフフフ……この権利を使って何をしようか…フフフフ…」

恭一郎は、この会社の最高権利を得た喜びに酔いしれた。
「でも…あの社長をどうにかしようなんて…無理なんじゃないの?」
「…とりあえず…研究室に新しい高性能電子顕微鏡(数百万)でも
買って貰おうかねぇ……それと、研究室の予算アップ……フフフフフ……」

「もっ、もしかして社長をゆする気!?」
恭一郎は在素の言葉を聞いていない。
不敵な笑いをしつつ、恭一郎は権利書を手に、
社長室へと向かっていった。

「……後で痛い目に遭わなきゃいいけど……」

そして、社長室。
社長室を訪れた恭一郎は、早速社長との交渉に入っていた。
「すぐ空きビルは見つかるし、しかも怪しいくらい安かったから、
妙に出来過ぎた話だと思ったら…久我さんのビルだったのか~」

恭一郎からの依頼(=脅迫)は終わっていた。
それを聞いた社長は、特に焦りも驚きもせず、
のんきに好物のたこ焼きを食べている。
先日、できたてのたこ焼きで口内を
大やけどしたばかりなのに、懲りていない。
「さて…社長。返事の方はいかが致しますか…?フフフフ…」
社長への恭一郎の依頼(=脅迫)は、新しい電子顕微鏡の購入と、
研究室の予算アップ。その条件を飲まなければ、
会社ごとこのビルから追い出されてしまうのだ。
「しょーないなぁ。別にいいよ。顕微鏡と予算アップね」
社長はあっさりOKする。
手早く、内線電話で購買部に顕微鏡を発注依頼をし、
経理部に研究室の予算アップの検討を依頼する。
「これでいいんでしょ?」
「は、はぁ…」
少しは慌てるかと思えば、全く動じず要求を飲んだ社長に、
恭一郎は少なからず残念に思った。
要求を飲んでくれたのだからこれに越したことはないが、
いつもマイペースを保つ社長の困った顔も、少しだけ見てみたかったのだ。
「ま…多少無理があるお願いですけどねぇ…
でもま、そこはそれ。私がなんとかやりくりしますわ。」

そう言って、社長はため息をつき、笑みを浮かべる。
少しは困っているのか?
そう感じ取った恭一郎は、してやったりという表情をする。
「…フフフフ…それでは社長。大変とは思いますが…
これからもよろしくお願いいたしますよ……フフフフ」

『これからも』
それは恭一郎がこのビルの所有者である、という念押しでもあった。
そんな恭一郎の勝利宣言を気にも留めずに、
社長が会話と全く関係ないことを、問う。
「そういえば、仙波くん、今日会社に来てないようだけど、休みだっけ?」
「…ええ、仙波くんは今日から3日間有給休暇だね……。
家族と伊豆に旅行に行くとか…」

なんだ、そんなことかと言わんばかりに恭一郎が言葉を返す。
「そっか……ま、いいや。話は終わったでしょ。
じゃ、私はちょっと仕事あるから」

社長がそう言うと、恭一郎は満足そうに社長室を去っていった。

社長は、恭一郎が社長室から離れたのを確認すると、
続けて内線電話をプッシュした。

「…もしもし、瀬上さん?」

次の日。

「それにしても…ホントに社長をゆするなんて…いいの?」
在素が不安そうに恭一郎に問う。
「ゆするなんて人聞きの悪い…これはビジネスだよ、ビジネス…フフ…」
「どこがビジネスよ!…でもまあ、何も起こってないようだし、
良しとするべきかしらね…」

研究室内で朝食を終え、久我親子が食堂へと足を運ぶ。
「…あら?何かしら」
食堂に掲げられている掲示板の前に、何やら人だかりが出来ている。

「こんな超中途半端な時期に人事異動かよ。」
「でもいいんじゃない?彼ずっと異動したがってたし」
「おめでとうっていうべきかもね~あははは」

(…誰がどこに異動になったんだ…?)
人だかりをかき分け、恭一郎は掲示板に貼られた
A4サイズの貼り紙を見る。

” 開発研究室  仙波 継人 殿

   右の者、平成12年1月18日付にて、

   ねぎ秘密結社本社・総務部秘書課勤務を命ずる ”

「社長っっっ!!!!なんなんだねっあれは!!??」

掲示板を見た恭一郎が、血相を変えて社長室に怒鳴り込んでくる。
「あら~久我さん!オハヨ。」
のんきに挨拶する社長の言葉を遮り、恭一郎が続けて怒鳴る。
「なっ…なんで私に断りもなく仙波くんが総務部なんかへ!?」
「別に、妥当な人事異動でしょ。
仙波くんは前々から研究室辞めたがってたし。それに、
研究室より総務部の方が人件費が安く済むのよ。残業少ないから。」

恭一郎にとっておそらく、最高の部下であり最愛(笑)の部下、
そして最適の実験台である仙波継人が、自らの手から離れてしまう、
そんな事態に陥り、顔を真っ青にする恭一郎を気にも留めずに
社長があっさり言う。
「そんな横暴なっっっ!」
「横暴?何がよ。このビルの一番エライ人は久我さんだけど、
この組織の一番エライ人は私なのよ~~?
この組織の人事をどうしようと、私の勝手だもんね~」

まるで子供のケンカである。
昨日の勝ち誇った笑みとはうって変わって、
やられた……!!という顔をする、恭一郎。

「まぁ、高ぁい顕微鏡を買うためと、予算アップのためだもんねぇ?
大丈夫、仙波くんは私の社長秘書として大事に大事にするからねv


(続く)

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