その後、二人だけでゲーセンの外に抜け出していたのが
他のメンバーに見つかってしまった初南賛と恵莉は、
呼び戻された後、ゲーセンからイベント会場などあちこち歩き回った。
オフ会の間だけ彼氏の振りをしていてくれるだけでいい。ただそれだけ、のはず。
綿密な打ち合わせをする余裕もなかったため、
とりあえず初南賛は『それっぽく』、
恵莉のそばにぴったりとくっついて歩くよう心がけていた。

やがて、オフ会のメンバーの一部が二人について怪しみ始めた。

「なあ、あの二人さっきからずっと一緒にくっついて歩いてねえ?」
「そーだなぁ。オンラインじゃそんなすごい仲がいいってわけでもなかったのにな」

(さすがにずっとくっついて歩いてるとそう思われる…か…
それにしても、なんで『彼氏の振り』なんて……)

今日のメンバーは恵莉を除く全員が男。
この中の誰かから、言い寄られたりしているのだろうか。
オンラインの世界では、『中の人』が女性だと明かしただけで
顔も知らないのに言い寄ってくる、あまりにも手の早い男もいるくらいだ。

あちこち歩き回って疲れた一行は、再度喫茶店に入って休憩することになった。
皆がまったりと談笑する中、シューティングスターが席を立ち上がる。
そして意味深に、恵莉の肩に手をやった。

「……ケイリーちゃん、ちょっと来てもらっていいかな」

その一言で、恵莉の顔が真っ青になる。
もしかして、シューティングスターが『言い寄ってきてる男』なのか?
「……あ、あ、あの……どうして……」
怖くて視線を合わせることすらできず、恵莉は何故自分だけを呼び出すのかを問う。
「どうして、って、
そりゃあケイリーちゃんと二人だけでちょっとお話がしたいからだよ」

「……………!」
やはり恵莉を狙っているのか。
実際、彼氏でもなんでもないが、あらかじめ自分を使って予防線を張っていた
恵莉を助ける義務は一応ある、と思った初南賛は
シューティングスターを睨みつけて立ち上がった。

「……ちょっと待ってください。ここで話せない彼女への用事ってなんですか?
彼女、怯えてるじゃないですか」

「お、おい…ジョナサン、落ち着けよ…」
初南賛の声に怒りを感じ取った他のメンバーが、
びくびくしながら初南賛をなだめようとする。

「別に、いかがわしい用事じゃないよ。
ただ、この男だらけのこの場じゃ、ちょーっとね。
あとさっきから思ってたけど、ケイリーちゃんはジョナサンの彼女なわけ?」

皆が口に出せず疑問に思っていたことを、
シューティングスターはあっさりと問いかけて見せた。

「そ……」
そうです、だから彼女には手を出すな!
そうタンカを切ってやろうと思った初南賛の言葉を遮り、
恵莉が真っ先に叫んだ。


「そ、そうです!わたしはジョナサンくんとおつきあいしてるんです!
だ、だから…ごめんなさい!シューティングスターさん!
おきもちはうれしいんですがあなたとおつきあいは、できませんっっ!」


………………

その場が静まり返る。
初南賛にしがみついて、断固拒絶といった態度の恵莉。
とりあえず相手に負けまいと、睨みを利かせたまま仁王立ちの初南賛。
そしてその中で一番あっけにとられた表情の、シューティングスター。
二人に何か大きな『誤解』をされている。
それに気づいたシューティングスターが、両手を振り回しながら笑う。
「………いやいや、いやいやいやいやいや!そーじゃないから!
お付き合いとか、マジありえないから!そーじゃないんだって!」

「ええ……?」
「あーもう、話すより行動に移したほうが早いな!
とにかく、絶対ひどい目とか嫌な目には遭わせないから、こっち来て!」

そう言って、シューティングスターは無理やり恵莉を連れて行ってしまった。
「ちょ……シューティングスターさん、そっち女子トイレ…… !?」



十数分後。

実に満足そうな顔をしたシューティングスターと、
顔を真っ赤にして、袖で隠してしまっている恵莉が戻ってきた。
恵莉は別の衣装に着替えさせられていた。


20120506


「ケイリー…その格好…」
「ううう……はずかしすぎます……」
「そんなことないじゃん!超似合ってるって!やっぱ、俺の目に狂いはなかった!」
恵莉は、仲間内でやっているゲーム内のキャラクターの衣装を着させられていた。
「何……じゃあ、シューティングスターさんが、はせが……いえ、ケイリーさんに
言い寄ってた、っていうのは……コスプレして欲しかっただけ?」

「そそー!俺、コスプレ衣装自作するの好きでさー!
でもこういう女の子らしいのは似合わないから、友達に着せて写真撮るのが趣味!
前にケイリーちゃんが身長150ちょいしかないって聞いたことあったから、
絶対着せてやろうと思ってたんだ!」

「……………」
若干、呆れた視線が初南賛から恵莉に向けられる。
その視線の意味を十分に悟った恵莉が、さらに真っ赤になって袖で顔を隠した。
完全に恵莉の勘違いであったのだ。
「さぁーて、せっかく着替えたんだしこのまま街中歩こうぜー!」
「えぇぇえ !? このかっこうでですか !? は、はずかしいですー !!」
「だーいじょうぶ大丈夫!ここ秋葉原だし別に珍しくもなんともねーよ!
なあ?あ、ジョナサン、彼女ちょっとこの格好で歩かせるけどいい !?」

一応、恵莉の『彼氏』宣言をされたことを思い出し、
シューティングスターが同意を求める。

助けを求める視線を送る恵莉だったが…。
「…あぁ…細かいことは後で適当に説明しますけど
僕ケイリーさんの彼氏じゃないんで。好きにしたらいいと思いますよ……」

あっさりと嘘を暴露して見捨てる初南賛。
「なぁ~んだ!そーなのか!じゃあ行こっか!ケイリーちゃん!」
「ちょ、ちょっとさいじょ…………ジョナサンくん―――――― !?」
助けを求める叫びもむなしく、シューティングスターに引きずられて
秋葉原の街中を
コスプレしたまま歩くことになってしまった恵莉であった。




秋葉原の街中を十分に練り歩き、写真撮影を楽しんだあと、
満足しきったシューティングスターに、
ようやく元の服に着替えることを許してもらえた恵莉は

げんなりとした表情で喫茶店の女子トイレから出てきた。
「……ええと、衣装はおせんたくしておかえしします……ね……」
「あぁ!全然気にしなくていーよ!あの神ゲーマー・ケイリーちゃんの
生脱ぎ衣装ってことで俺が大事にとっておくから!…なーんてな!」

実にご満悦のシューティングスター。
そこに初南賛が、冷ややかに突っ込みを入れる。
「シューティングスターさん、本当にコスプレ大好きなんですね。
…………シューティングスターさんの彼女になる人は、
コスプレイヤーさんとかじゃないと勤まらなそうですよねー……」

そうだなー、ほんとだよなー、と他の参加者も相槌を打つ。
そんな皆の様子を見て、シューティングスターが苦笑いする。
「…………あっははは、まぁ仕方ねぇっちゃないんだけど。
一応俺、普通の女の子だから『彼女』は無理かもな?」


…………はい?

恵莉と初南賛を除く、全員が目を丸くする。
『シューティングスター』という、性別が判断しづらいハンドルネーム。
一人称は『俺』。短い髪に、170cmを超える身長。
細身の身体に白Yシャツにジーンズという

見た目だけなら、どこから見ても清潔感あふれる『男性』なのだが。
(……やっぱり、ね……)
最初に恵莉を無理やり引き連れて女子トイレに迷わず入っていったのを見て、
そこから初南賛は、もしやと思っていた。
恵莉は着替えの最中におそらく『ネタばらし』をされていたのだろう。
コスプレを嫌がりはしたものの、嫌がりながらも為すがままだったのは
シューティングスターが『女性』であったからだ。
これが男性相手ならおそらく泣くほど嫌がったに違いない。
「俺、本名『石流 星香(いしごおり・せいか)』!立派じゃないけど女の子!
本名の真ん中とってシューティングスターなんだよね~。
見た目こんなんだから、ケイリーちゃんみたいな
ちっちゃくて女の子らしい女の子大好き!
だから、これからもコスプレよろしくなケイリーちゃん!」

改めて『女同士の友情』の挨拶をするシューティングスター。

「こちらこそよろしくおねがいしたいですけど……こ、こすぷれは……!」


様々な勘違いと思惑と困惑入り混じるオフ会であったが、
とりあえずは滞りなく終了した。









休日明け。

「オフ会ねぇ~☆ そんな面白いことあったんだ☆」
昼休み。昼食を終えた初南賛は、
榊 ゆたかと共に屋上公園でオフ会での出来事を話していた。

「でもどうせプライベートのこと何も話せないんなら、
ずっと長谷川さんの彼氏のフリしてりゃよかったのに☆ そのほうが面白そー☆」

「面倒だし、フリなんてむなしいだけでしょ……」
「え?え?むなしい?ってことは初南賛、ちょっとは彼女欲しいとか思っ」
「無いから。」

「……初南賛くん」

冷やかすゆたかと牽制する初南賛の間に割って、か細い女の子の声。
恵莉であった。
「このあいだ…喫茶店で、こまかいおかねたてかえてもらっていたのを…
かえしにきました」

「……別に、そのくらい気にしなくて良かったのに」
「いえ……そういうわけにはいかないです!
そ、それに……初南賛くんにはそれいがいにも、めいわくかけてしまって…」


「……へぇ~☆」
しばらく黙って恵莉と初南賛の二人の会話を見ていたゆたかだが、
二人の顔を交互に見ながら、にやにやと笑いだした。
「何だよ、ゆたか」
「初南賛が『名前で呼ばないで!』って突っ込まないの、
初めて見たなぁ~☆と思って☆」

「……! え、だ、だめですか…ね…?
オフ会で、みょうじでよぶとまずいかと…おもって…
なんだか、くせになってしまったのですよね……」

気分を悪くさせてしまっただろうか、と不安になった恵莉があわてて言い訳をする。
「…まあ、シューティングスター…
石流さんが今後も頻繁にオフ会したいって言ってたし、
僕のハンドルはジョナサンだし…いいんじゃないの。気にしないことにするよ」


初南賛が、毛嫌いしている自分の本名に関してここまで寛容になるのも珍しい。
これはやはり、恵莉は特別な存在?
そう安直に考えたゆたかが、調子に乗ってさらに冷やかす。

「へぇぇ~☆☆初南賛が…あの初南賛が女の子に名前で呼ばせちゃうなんてな~☆
オフ会って面白そー☆オレも行ってみたいなー☆☆」

ああろくでもないことを考えられている。
そう直感した初南賛は、話の視点を思いっきりずらすことにした。
「ゆたかもウチのゲーム仲間になって、是非参加するといいよ。
長谷川さんの貴重なかわいいコスプレ姿、毎回見れるだろうから」

「えっ!!!!マジで☆☆長谷川さんコスプレするんだ !!?☆☆」
案の定、ゆたかの興味がそっちへ行く。

「ちょっ……ま、まいかいは、しませんから――――――!!」


恵莉の叫びが、新緑を映えさせる五月の青空に、こだました。




(おしまい)