20120205


※この話はねぎ秘密結社ニュース2011年01月02日号
2011年01月09日号を読んでから読むことをおすすめします。




ポケットに入れている携帯が小刻みに震える。
メールの着信バイブ。差出人は見ずともわかっていた。
内容は大体予想はついている。ややいらついた表情をしながら、
南十字照美は至極面倒くさそうに携帯を開いた。

「………くそじじい。」

祖父からであった。
最近携帯メールのやり方を覚えた祖父は、メールを送るのがとにかく楽しいらしく、
他愛もない内容のメールを、やたらと頻繁に照美に送ってくるようになった。
その内容とは……。
9割方、”婚約者 ”の泉 次郎とは上手くいってるかどうか、というものである。
(だから…婚約はおろか、付き合ってもいないって何度も言ってるのに…!!)

”僕がもっと、自分に自信が持てるしっかりした男になるまで…
 待っていて、もらえませんか。”


親たちが勝手に決めた「口約束の婚約」を破棄したものの、
次郎は照美に対し、こう宣言してきた。

次郎のことは、やたら腰が低いことと、自分に自信がなさすぎること。
それらさえ除けば十分魅力ある男だとは、思っている。
(でも……あたし、いつまで待ってればいいの?)
次郎は自分よりも6つも年下の、22歳である。
いったいどれだけ先を見て、そんな宣言をしてきたのであろうか。
2年も経てば、次郎はまだ24歳だが、照美は30歳になってしまう。
(あたしが『もう十分だよ』って言って申し入れるのは簡単だけど……
……でも、やっぱり、なんていうのかな……
求められたい願望みたいなのは、捨てきれないのよね……それに……)


自分は本当に、次郎のことが好きなのだろうか?
結婚願望の強い自分にたまたま与えられた、
可能性にすがってるだけではないのだろうか?

心の奥底には、そんな不安が潜んでいることに、照美は気づいていた。

「照美ちゃん」

誰もいない倉庫の前でぼんやりと考え込んでいると、
自分のかなり上の方から、おっとりとした男の声に呼び止められた。
「………吉村部長」
「こんなとこにいるとはねぇ。捜しちゃったよ」
「あ、ちょっと資料の探し物をしていて…すいません。何か用です?」
「……新年度の人事のことなんだけどね。ついさっき、決定したんだ」
にこにこしながら、悟史は照美に1枚の文書を手渡した。
「異動はないけど、何人か昇進するかな~。あ、一応公布はまだ先だから、内緒だよ」
「へぇ…………………って、え!?」
文書に書かれた名前に、照美はわが目を疑った。
照美の驚きように、悟史は満足そうな笑みを浮かべた。


”営業部 課長  泉 次郎 ”


「か………課長おおおお!?」
「最近彼すっごい頑張ってくれてるし、
その成果がここ1ヶ月ほどでバンバン出てるからね。
利益も急上昇さ。ほんと、すごいよ。ま、コレが俺の評価だよ♪」

「で…でも、ヒラからいきなり課長…って」
「君だってヒラからいきなり部長だったじゃないか。それには劣っちゃうけどね~」
「そ、それは!部長公募に応募して、部長昇進試験をちゃんと受けたからでしょ!
例外みたいなもんじゃない!普通だったら…」

「………君の、泉くんに対する評価は、どうなのかなぁ?」
照美から文書を返してもらうと、悟史は文書に目をやりつつ、ニヤニヤと照美を見下ろす。
「部長とヒラじゃ不釣合いかもしれないけどね。
部長と課長なら別にいいんじゃないかなぁ?
でもそんな理由で彼の昇進を後押ししたわけじゃないよ。
彼の行動と、それによる結果を考慮しての評価だからね」

「………な、何を………言いたいんですか」
何もかもを見透かされてるような気がしてきた照美は、上からの視線に、やや怯む。
「彼はもちろん、会社のために頑張ってくれたんだろうけども、それ以外にも…
確実に、君のために一途に頑張ってるようなんだよねぇ~。
………そろそろ、君から、ご褒美があってもいいんじゃないかな~、
とか思ったりして、ね」


混乱して硬直してしまった照美の頭を、悟史は黙って優しく撫でると、
倉庫から去っていった。









数日後。
社長の承認を得た新年度の人事が、正式に公布された。
次郎の昇進は、照美が驚いた以上に、本人が驚愕した。

「よ、吉村部長っっっ!!!!?????
あ、あれ、あれじ、じじじ、じぶ、自分がか、かちょ、課長とか…!!!!!」

驚きすぎて、いつも以上にどもってしまう次郎。
そんな次郎を微笑ましく見つめ、悟史をはじめとした営業部の面々が盛大に祝った。
「君の頑張りからしたらこの昇進は奇跡でもなんでもない、当然のことだよ~」
「すっごいな~☆ 泉先輩が課長かぁ~☆☆
…おっと、もう泉課長って呼ばなきゃダメですよね☆」

「泉課長おめでとうございマス!!
次の新刊からは泉課長シリーズとタイトルを改めて描かなきゃデスね」

「泉課長って……な、なんだか慣れないッスね……ホントにこんな自分が……」
次郎は、申し訳なさそうに頭を掻くと、榊 ゆたかから勢いよく背中を叩かれた。
「こんな自分、とか言っちゃダメですってば☆
じゅう~~~~~~ぶんに、自信持ってくださいよ☆
ヒラからいきなり課長ですもん☆きっと南十字部長もホメてくれますよーぅ☆☆
いいなぁ泉課長!! オレも南十字部長からお祝いのハグしてもらいたーい☆☆」

「…………!」

ゆたかの一言に、何かを思い出したかのように考え込み、黙ってしまう次郎。

「……す、すいませんっ!!!! 少し休憩してきます!!!!」
次郎は猛ダッシュで営業部オフィスからいなくなってしまった。
「………あれー……?オレ何か変なこと言っちゃったかなぁ?☆」
次郎が走り去った方向を見つめながら、怪訝な顔をしているゆたかの両肩を。
悟史が背後から両手でがっしりと掴む。
「榊くん」
「ひょぇあっ!?☆ ……な、なんですか……?」
悟史から謎の威圧感を感じ取ったゆたかは、怖くて振り向くことも出来ずに苦笑いで答える。


「君に、ちょこーっと無理難題を、部長命令でお願いしても、いいかな?」




(つづく)