20100822

(神奈川の郊外にある、のどかな、とある寺)


住職:こんにちは。今日も暑いですな。

上総:こんにちは。今年は本当に暑さが厳しいですね。

住職:お参りですか。

上総:ええ。こちらに……妻が眠っておりますので。

住職:お若いのに…奥様が。では、どうぞ、ゆっくりお話してきてください。

上総:はい。失礼いたします。









上総:……奏子……来たよ。今日も暑いね。
   ……3ヶ月ぶりくらいかな?最近あまり来れなくて…ごめん。

   綺麗な花が供えてあるね。大きな向日葵…。
   お義母さんが供えたのかな?君が一番好きだった花だよね。
   花瓶持ってきて正解だったな。僕が持ってきた花はこっちに入れよう。

   もう、8年も経ったんだね。長いような、短いような……。
   ……沙織さんに出会うまでは、一日一日がすごく長かったんだけど。
   今では、何だかあっという間かな。気がついたら30になってたし。
   毎日が、結構楽しくて…。
   全然、振り向いて貰えてないけどね。

   ……………

   君の事は、冷めた訳でも、ましてや忘れた訳でもないんだ。
   昔と何一つ変わらず、好きだし、いつも想ってる。

   でも……それと全く同じくらい、沙織さんのことも、好きで…。

   何か…君以外の女性に気持ちが行ってるのに、ここに来るのは、失礼な気もして……
   なかなか来れる勇気が出なかった。
   情けないよね。

   君なら、笑って背中を押してくれるって、わかってるのに。
   ウジウジしてるの、自分がするのも他人がするのも、一番嫌いだったよね。
   そう、わかってるのに……。

   ……………

   ……もし、君が今生きていたら。今、ここに居たら。
   沙織さんを好きになることは、無かったはず。
   彼女も、それに気付いてる。だから……
   この先、想い続けても、報われないかもしれない。
   でもね………

   恋人同士じゃなくても、夫婦じゃなくても。
   彼女が、他の誰かと結ばれても。
   幸せそうに笑っていてくれれば、僕が彼女にとってどんな立場であるかなんて、
   どうでもいいことに、最近気がついたんだ。

   もちろん、僕の隣で笑っていてくれるのが、一番良いんだけど……
   ……この想いは一生ものだという自信はあるけど、
   振り向いて貰える自信は……あんまり無いんだ。無いんだけどね。

   それでも今が、とても幸せなんだ。
   ……これって、おかしいかな?

   でもいつかは、この気持ちが本物だって事だけは……
   ……君の代わりなんかではなく、沙織さんが好きなんだって、わかって貰いたいな。
   だから、いつも、つい気持ちを押し付けてしまうんだよね…。





   ……ごめんね。何か沙織さんの話ばっかりで。
   本当、情けないけど……こんなだけど。
   前を向いて頑張ってるつもりだよ……僕なりに。


   見ていてね。









住職:お参りは、済みましたか。

上総:……ええ。久しぶりだったので、色々と話していました。

住職:……奥様は、お若かったのでしょうが……幸せだった……いや、幸せでしょうな。

上総:え?

住職:貴方の顔を見ればわかります。
   遺された者が幸せでいることが、故人への最高の供養ですよ。


上総:そ、………そんな、幸せそうな顔してましたかね?

住職:はは、そんな困った顔をしないで下さい。
   お墓参りは辛気臭い顔をしなければいけない、という決まりはないですよ。

上総:あ、あはは……

住職:また、いらしてください。暑いのでお気をつけて。

上総:はい、ありがとうございます。では。