20000619

6月18日、日曜日。

「ふぁあ……この辺にしておくか…」
開発研究室。
仕事を終え、軽く溜息をし、背伸びをする久我恭一郎。
日曜日だというのに仕事というのは、別に珍しいことでも何でもない。
趣味=仕事の彼は、趣味に没頭さえしていればそれが仕事になる。
そして住まいは会社内。つまり彼には『日曜日』というものは
ほとんど存在しないのだ。

時間は午後8時を過ぎていた。
久我は、自分の寝床である宿直室へと向かった。
「…?」
室内へ足を踏み入れた瞬間、人の気配が全くないことに気付く。
自分と同じく、宿直室で寝泊まりするもう一人…
娘の在素の気配が、無い。
「在素……こんな時間に出かけたのか?
全く…小学生がうろついていい時間ではないな…」

普段はほとんど放ったらかしのくせに、
こういう時だけ『父親面』をしながら、
白衣を脱いで、ベッドの側にあるハンガーに掛ける。
その時、ベッドの上に書き置きがあることに気が付いた。

 ”継人さんの家に泊まりに行ってきます  在素”

「なっ…何っ!? なんて羨ましい……」
仙波継人には6歳になる妹がいる。
在素はその娘と仲が良いため、割と頻繁に継人の家に遊びに行っている。
だが、泊まりがけで遊びに行くのは初めてであった。
「前もって言ってくれれば…仙波くんの髪や衣服を盗ってくるよう、頼んだのに…」
(何に使うんだ、何に・笑)

 ”P.S. 前もって言っておくと、継人さんのプライバシーに関わる物を
    盗ってこいと言われると思い、黙ってました。”


「ぐっ……読まれていたか……」
さすがだな…
と、感心すると同時に肩を落とす。

 ”P.S.2. ベッドの下を見て下さい”

「ベッドの下…?」



追伸を読んで、すぐさま在素のベッドの下を覗き込む。
そこには、水色の包装紙に包まれ、
青いリボンで飾り付けられた小さな箱。
箱にはメッセージカードが添えられていた。

 ”いつもお仕事お疲れ様。でもあまり無理はしないで下さいね。
  また素晴らしい発明を見せて下さい。

  Alice(在素)”


一瞬、何故こんな時期にプレゼントを渡されなければならないのか。
久我はピンと来なかった。
だが、包装紙に貼られた金色の『Father's Day』のシールに、ハッとする。
「そうか……今日は父の日か……」

『父の日』…
ついこの間までは、自分には無縁の日であった。
ほんの少し前までは、自分に娘がいることも知らず、
一人でこの宿直室に寝泊まりしていた。
そして、自分の面影をよく受け継いだ、
あの娘の存在を知り、初めて出会ったのはついこの間のことである。
「もう…1年程になるのか…」
一緒に暮らすようになった今でも、自分に娘がいることにあまり実感は無い。
だが、こういう嬉しいことをされてしまうと、
娘がいるということに、喜びを感じずにはいられない。
久我は娘の行為に感動を覚えつつ、ゆっくりと、丁寧に包装紙を剥がす。

箱を開けると…その中には、一本の試験管が。
試験管の中には液体。
そして、試験管にはまたしてもメッセージカードが添えられている。


 ”『ガングロ養成エキス』
  これを飲めば、日焼けサロンに行かずとも色黒になれる
  新発明の薬です。まだ誰にも試してないので効果がどうなるか
  わかりませんが、飲んでみて下さい。
  感想は別紙のアンケート用紙にお願いします。
  締め切りは6月30日。”



父の日だろうと何だろうと、
使える物は親でも使え。
プレゼントまで試薬品とは。

「……………………
やはり……私の娘だな…………」











翌日、研究室には…
松崎し●゛る並に色黒になった久我の姿が見えたという。

実験は無事、成功したようだ。