20000124

「似合うよー継人!! ブレザー姿!!」

そう言って継人の隣で嬉しそうに言うのは、橘。
継人は、研究室へと配属されて以来、制服はワイシャツの上に
白衣着用だったため、ブレザーを着るのは実に久しぶりである。

先日、久我恭一郎に脅迫された社長は、
恭一郎に無理な条件を飲まされたその仕返しに、
恭一郎の溺愛する部下、仙波継人を突然、開発研究室から
総務部秘書課へ異動させてしまうという暴挙に出たのだ。
社長曰く「人件費削減のため」とのことだが
はっきりいってただの恭一郎へのイヤガラセである。

イヤガラセ一つのために、人一人を何の予告も報酬も無しに
異動させられるという、人権を全く無視したこの人事異動。
怒りが専売特許の継人だが、
この件に関してはまるで怒ってなどいなかった。
むしろ大喜びである。

「…これで…これで久我さんのあの実験地獄から
逃れられるんだねぇ………良かった…良かったよ…
僕…継人がいつ久我さんに殺されるかと…いつも心配で…」

橘は思い切り嬉し泣きしている。
毎度毎度、恭一郎の作った得体の知れない薬の実験台に
される継人のことを、本当に本気で心配していたのだ。
「な、泣くなよ、んなことで…」

継人は今日から研究室員から社長秘書となる。
自分の直属の上司が久我恭一郎から社長へと替わるのだ。
(社長もはっきり言って得体の知れねーヤツだが…
ヤツ(久我)よりはマシだろう…
ま、一つ今日からそれなりに働かせてもらうぜ。)







「社長!!!!」
「い――――やだよぉぉ~~~ん♪」

社長室から男女のけたたましい争い声が。
社長と久我恭一郎である。
「もう…この通りですよ…顕微鏡と予算アップは諦めますからぁ~」
恭一郎はすっかり腰が低くなってしまっている。
よほど継人を返して貰いたいのだろう。
「ダ~~メ~~。顕微鏡はもう注文しちゃったし、
予算アップもこの間会議で可決されちゃったしね~~はっはっは」

「……ぐむむむむぅぅぅ~~……」
実に悔しそうに、下唇を咬む、恭一郎。
そんな恭一郎の表情を見て、社長は
「あら~久我さん♪ そんな顔もカッコイイわよ~♪」
様々な形相をする恭一郎をとことんコケにしている。
悪魔である。

「シツレイシマース!シャチョー!センバサン連れてキマシタ!!」
「…失礼」

元気良く社長室に飛び込んできたのは、
社長秘書のクリスティーン・フォックス、
そして新・社長秘書の継人である。
「あー御苦労様、クリスちゃん。
仙波くんは今日から私の秘書なんだよね♪
たいした仕事はないからさ、まぁ気楽にね!
クリスちゃん、先輩なんだからいろいろ教えてあげてね~」

「ハイ!センパイデスもんネ!ガンバリマース!!!」
社長は、恭一郎のことは完璧無視である。
「仙波くんっっっっっ!!!!!!」
業を煮やした恭一郎が、継人の両肩をガシッッッ!!と掴み、詰め寄る。
「君は…君はっ!! 研究室に戻る気は全く無いのかねっ!?」
「無いね。」
「そそそ…そんなブレザーなんて着て!!
社長宛の電話を取ったり、スケジュール管理したり、
社長の趣味の電化製品屋のハシゴに、コンビニ弁当の食べ比べに、
おいしいラーメン屋探しに付き合うって言うのかいっ!?」

「変な薬で死にかけるよりはマシだな。」
何を言っても継人は研究室に戻る気などカケラも無い様子だ。


「あ、クリスちゃんと仙波くんはとりあえず
会議室でお仕事の打ち合わせでもしてて。」

突然、秘書二人を下がらせる社長。
二人が社長室から出ていくのを見届けると、
社長が勝ち誇った笑みを浮かべ、たった今出ていった
継人の方を指差す。

「…じゃあ、仙波くん本人の口から
『開発研究室に戻る』って言わせたら、戻してあげるよ」


ガックリと項垂れていた恭一郎が、
ハッ!と頭を上げる。
「本当かいっ!?」
「ただし!薬や機械で操ったりしちゃダメ!!
『開発研究室に戻りたい』って書いてある紙を読ませたりとかじゃ
ダメだからね!仙波くんの意志で言わせるの!!」


「……え……そ、そんな………!!!」



(続く)