19991108

「沢井さんには、辞めて頂くことにしましょうか」

社長の、その一言を聞いた瞬間。
英司の目の前は真っ暗になった。
彼は、過去にもリストラを経験している。
一方的に解雇され、路頭に迷っているところを今の社長に拾われ、
やっと自分の居場所を見つけられたかと思ったのに…

「………そうか………そう来ましたか……」
絶望が次第に怒りへと変わっていくのを、
ひしひしと感じられた。

……ぷちっ

「リストラはもうゴメンだっっっ!!!!
クビになるくらいなら、こっちから辞めてやる!!!!」



英司は、怒りを露わにして、駆け足で自分の席へ戻り、
彼の憤怒の表情に驚くクリスからレポート用紙を1枚貰うと
筆ペンで荒々しく字を書き始める。

”辞 表 ”



社長室にいた社長と達は、
部屋のすぐ外から怒鳴り声が聞こえたのに
驚き、ドアを開け様子をうかがっている。
「な、なんなの?…沢井さんの声が聞こえた気がしたけど…」
「まさか、今の話聞こえてたんじゃ……」
やがて、辞表を書き終えた英司が社長室へと駆け込んでくる。

社長室にいた一同は、英司の様子が
いつもと違うことに、一瞬にして気が付いた。
「な……どうしたんだよ、英司さん!?」
満の声を無視し、英司は社長に辞表を突きつける。
「今までありがとうございました社長!!
私は今日限りで辞めさせていただきますっっ!!!」

「は?」
英司の、突然の退職宣言に、社員一同が驚く。
だが社長は特に驚きもせず、きょとんとしている。
「な…何言ってるんですか~沢井さんっ!」
「そうだよ、何で辞めんだよ、英司さん!!」
今にも社長に襲いかからんといった感じの英司を、
悟史と満の二人で押さえつける。
「えぇ~い!!離せ離せ!!!だいたい君らが
私をクビにしようって今言ってたんじゃないか!!!え!?」


「何言ってんだよ英司さん!! クビじゃなくて栄転だよ!!」

満の一言に、じたばた暴れていた英司が ピタッ と止まる。
「…え、栄…転?」
何が何だかさっぱりわからない、英司。
「だ、だって今『辞めていただきましょう』って、社長が…」
「それは『人事課を辞めてもらう』っつーイミだったんだけど…」
まったくもう、といった表情でため息をつく社長。
「人事課を辞めるって…じゃあ私はいったいどこに…」

「まー一応今決まったばっかだけどね。
沢井さん、あなたには今度新しくできる部署、
広報部の部長をやってもらうからね」

広報部。それは、N.H.Kの業務、商品などを
あらゆる分野に宣伝し、広める、
いわば販売促進の役割をする部署。
近頃、経営不振なN.H.Kの景気向上のための対策である。

「んじゃ、ついでだから辞令渡しとくね。
瀬上さん、そのメモ帳とペン貸して」
社長はメモ帳を一枚切り離し、そこに
『沢井英司さんは広報部の部長よ』
と書いてシャチハタ印を押すと、それを英司にポイッと投げつける。
「おいおい、社長。それが辞令かよ」
満が呆れて言う。
そんなことはおかまいなしに、社長は英司に言う。
「んじゃ、さっそく席替えいたしましょうか」





「………社長………これは一体……」
「だって、しょうがないじゃん。空いてる場所がないんだもん」

誰もいない食堂。その隅っこに、デスクとイスが一つずつ。
「こっ、ここで仕事するのかね?」
「何か不満?部長
文句ありありの英司を、社長が一目で押さえつける。
確かに、オフィスにスペースが無いのは事実。
場所が何処であろうと部長は部長なのだから、
しかたなく英司は口を閉ざす。
だがしかし、デスクが一つだけしかないことから、
英司は大事なことに気付く。
「……はっ!!
とっ、ところで、広報部は私一人なのかい!?他の社員は…」

「いるわけないじゃん。沢井さん一人だよ」
「ええぇぇっ!!?そっ、そんなぁあ!!」
「部下が欲しかったら自分で集めなさい!広報部なんだから
じゃんじゃん宣伝でもすればー?」

「そ……そんな殺生な……」

「フィギュアなんて作ってるヒマはなくってよ!ほっほっほっほ!!」




(おしまい)